村山秀樹編集によるVerse MD



Verse に対する思い入れ
自編 Verse Anthology (Verse MD) について
Verse MD up to #20
Verse MD up to #20
Verse MD up to #28



Verse に対する思い入れ

2003年9月8日

 いわゆるスタンダード曲に Verse なる前歌が存在する、ということを知ったのはいつ頃のことだったろうか? 少なくとも、ジャズを聴き始めの中学生時代(1960年前後)には全く意識は無かった。高校生になって買ったEPの1枚に、Tony Bennett の I Left My Heart In San Francisco があり、これについては、いつの時期からか、出だしが通常の曲調とは違うな、という意識はあった。しかし、Verse も Chorus も一連の歌詞/メロディとして曲を覚えてしまった。この曲はこういう構成の曲だと思っていた。そう言えば、シャボン玉ホリデーのクロージング・テーマのザ・ピーナッツによる Startdust は Verse から歌われていたのだろうか、記憶がはっきりしない。ザ・ピーナッツの復刻CDの中の Stardust はちゃんと Verse から歌われていた。が、これはあくまでレコーディング用であろうし、シャボン玉ホリデーのクロージング・テーマとは別物であろう。

 Verse を意識するようになったのは、やはり大学に入り、ジャズ研に所属してからのように思う。この頃からヴォーカル・アルバムも良く聴くようになり、解説文にある「ヴァースから丁寧に歌っている」という表現に出会うようになった。演奏の場で、歌手から、「ヴァースはピアノとやりますので、リズム隊はコーラスから入って下さい」と言われることがあった。まだ、ヴァースと単なるルバートの区別もつかなかった。

 多分、ヴァースを初めて意識した曲は、But Not For Me ではなかったか、と思う。いつもインストでも良く演奏していたが、ある日の歌伴で、いつもとは全く異なるメロディで歌手が歌い始めたので、一瞬、違う曲かと思った。そうこうする内にやっといつものメロディが現われた。歌手に聞くのは何となく気恥かしかったので、その場はそのまま終わったが、後日、But Not For Me を聴くときは気をつけていると、確かに時々耳慣れない「前歌」のつくものがあった。LP解説を読むと、ヴァースという言葉がそこにはあった。それで、いわゆる「1001」の類の市販の楽譜を見ると、曲の前半に Verse と書かれている部分があり、その部分は私の知らないメロディで、それに続いて私の知っているメロディが Chorus あるいは Refrain として書かれていた。どうも Verse というのは歌曲の一部のようで、歌われる時と歌われない時がある、とわかり始めたのは、大学も終わりの頃だったように思う。この頃になると、ヴォーカル・アルバムを聴く時は必ず解説を読み、Verse の有無を確認して聴くようになった。Verse 付きの曲は美しい曲が多い、と意識するようになったのもこの頃からであ
る。

 1971年に就職し、大阪在住になってからは、演奏する機会が無くなって、片っ端から聴くようになった割には、インスト物が多く、ヴォーカルについても数をこなす割には Verse に関する興味は薄くなっていった。1984年に東京に戻ってからも状況は同じで、Verse に特に興味がある、という状況では無かった。

 Verse への興味が復活したのは、1998年に都内のジャムに参加するようになり、後輩のジャズ奏者との交流や、そのライブでの歌手仲間を通じてであった。私自身も歌伴の機会が増え、歌手の悩みなどを色々聞くようになった。その中から、「Verse は難しい」「覚えたくても手本となる音源が無い」 という意見が多数の歌手から聞こえてきた。この辺りの話から、そう言えば昔 Verse のある曲の美しさに興味を持ったことが思い出され、再度聴き直したい欲求に駆られた。振り返ると、私の手元には膨大なジャズのコレクションがあった。これで Verse Collection でも作れば、歌手の方々や伴奏者に役立つのではないか、とふと思い、手持ちの材料で Verse MD を作り始めた訳である。集め始めると、Verse 付きの曲は美しい曲が多いということを改めて認識し、自分自身がのめり込み始めてしまった、というのが実情である。しかも歌詞を理解し始めると、Verse 部分にこそ Chorus 部分の歌詞の謎を解く鍵が含まれているような歌詞も多く、歌詞における Verse の面白さに気付いた次第である。一方、Verse 部分はとんでもないコードがついていることもあるようだ、ということにも気付き始め、Chorus 部分の常套手段とは異なるそのメロディ展開/コード展開にも興味が湧き始めた。これら、歌詞、メロディ、コード、Verse の全てについて新鮮さを感じ、益々その魅力にはまってしまった、という次第である。

 Verse の付いている曲は、歌手はできる限りそれを歌う努力をすべき、と思う。歌に対する取り組みに、より努力が必要であり、結果的に多くの面で、その歌手の方の実力向上に効果があると思う。現に、私が知っている何人かの歌手で、Verse を大事にする方々がいるが、皆、非常に魅力的であり、しばらくの後には、素晴らしい成長が感じられる。このように、Verse は、歌手にとっては課題でもあり、聴き手にとってはより豊かな物語性を感じさせる材料でもあると思う。

 できるだけ多くの歌手の方々が Verse に挑戦されんことを!


自編 Verse Anthology (Verse MD) について

2003年9月8日

 この Verse Anthology(通称 Verse MD)であるが、当然のことながら、Verse の付いている曲を集めている。ただ、中には、意図してあるいは間違って、Verse の付いていない曲も収録されている。

 Verse でない曲が収録された例としては、
   1)単なるルバートで始まっている曲。
   2)定番のイントロに歌詞がついているもの。
   3)独自のイントロに歌詞をつけて Chorus 前に歌っているもの。
   4)サビなどを Verse 仕立てでルバートで歌ってから Chorus に入るもの。
   5)映画のセリフなど、何らかのしゃべりの後に歌に入るもの。
などがある。これら Verse でないものについては、気付いた限り MD 本体に曲名・歌手名と共に、コメントをタイプインして注記するとともに、リストにもコメント記入してある。従って、必ずしも Verse 付きでない曲も収録されているので、聴き手の方々には御容赦頂くと共に、御注意頂きたい。

 また、Verse 付きの曲とはいっても、そのアレンジによっていろいろな形態があり、一聴して Verse かどうかの判断が難しいものもある。一々譜面と照らし合わせた訳ではないので、この辺も聴き手の方々には御注意頂きたい。特殊な形態のものについては、気付いた範囲で MD 本体にタイプインすると共にリストにも注記している。

 Verse のいくつかの形態としては、
   1)通常 : Verse をルバートで歌った後 Chorus に入る。
   2)Verse + Chorus、再度 Verse + Chorus と毎 Chorus 前に Verse の入るもの。
   3)Verse を Chorus の途中に挟み込むもの。これの変形としては、Verse を
     サビのような形にして歌っているものもある。
     極端な例としては、Verse を最後に持ってきているものもある。
     これらはいきなり Chorus から始まるので、最後まで聴かないと Verse の
     存在に気付かない場合も多い。
   4)In Tempo の Verse。この場合、曲を知っていないと果たして出だしが Verse
     なのか否か判断できない。
   5)インストによる Verse に続いて、歌の Chorus。この場合も曲を知っていない
     と Verse かどうかの判断ができない。多くの場合、単なるイントロとして
     聞き逃してしまう。
     逆に、Verse が歌、Chorus がインストという珍しい例もある。
   6)独自(自作)の Verse を付けているもの。
   7)歌無し、インストものの Verse 付き。これは意外と少ない。

 収録曲の中には、Verse が滅多に歌われないような曲も多く、中にはこの音源以外では聴いたこともなく、Verse の譜面も見たことなく、Verse があるとは知らなかった、というような珍しい曲も含まれています。そういう珍しさ云々は別にしても、とにかく Verse 付きの曲は美しい魅力的な曲が多く、是非歌手の方々には挑戦していただきたいと思いますし、このリストがそういう方々にとって少しでも参考になれば、編集者としては嬉しい限りです。


Verse MD up to #20

2000年11月6日

 Verse MD もついに20枚目まで完了しました。延べ450曲程度になりました。だんだんネタも無くなり、収録曲も重箱の隅的になりつつありますので、この辺で一旦打ち切ります。最後の5枚の中に Mel Torme の比較的新しい魅力的なのを収録できたのは収穫でした。最近の新譜でもまだまだ素晴らしいのが有りそうですが、追い切れません。

 この編集作業を通じて感じたのは、前回の中途報告時にも書きましたが、Verse のある曲は魅力的な曲が多い、ということと、何らかの企画物 (Song Book シリーズ等)以外は、アルバム中の Verse 収録曲は意外と少なかった、ということ。企画物以外では1アルバム中、1〜2曲が平均収録数だったのでは?(Ella の VERVE Song Book シリーズ全CD16枚、全部欲しい!、入手できれば未収録分を追加したい。)

 また、いわゆる純粋ジャズ歌手よりも Pops 寄りの歌手(パティ・ペイジやドリス・デイ、はたまたカーリー・サイモンやリンダ・ロンシュタットまで)の方が丁寧に Verse を歌っているのも意外であり感激ものでした。更に意外だったのは、Billie Holiday の Columbia 系全録音(160数曲:Lady In Satin など新しいものは除く)中、Verse 付きはわずかに3曲(聴き逃してなければ)だけでした。これらも最後の5枚に収録。Decca は Verse かどうかよく分からないのが3〜4曲と Commodore は Verse 無し。Billie は総じて Verse が少ない、SP時代3分制限の故か?

 また、沢山ありそうだった Autumn Leaves の Verse 付きが Dee Dee の1例のみ(それも Verse はフランス語、じゅんちゃんから借用)だったのも、シャンソンでは結構 Verse から歌われているだけに意外でした。逆に Lush Life の Verse 無しは Julie London の1例があったのみ。あと、Dindi の頭は Verse なのでしょうか? インスト物では3例 (Stitt と Harry Allen と W.Marsalis)、歌のバックでのインストによる Verse が3例 (Chet Baker 2例と Rita Reys) を収録。

 Sunny Side は今回収録、All Of Me の Verse 付きは相変わらず未収録ですが、今後に期待するとして、最後の5枚はぼちぼち関係者に配布予定です。今後は細々と。


Verse MD up to #25

2001年2月12日

 Verse MD はその後も編集を続け、現在 #25 まで終わりました。これで延べ550曲程度になりました。
#21-#25 のハイライトは、びび の好意で #25 に Maxine Sullivan のVerse を含む素晴らしい歌を #25 のほとんどを占める 18曲も収録できたこと。今回初めての曲や比較的珍しい曲というばかりでなく、歌唱そのものが新旧共に素晴らしいことです(びび、感謝)。「月光価千金」なんて曲(この邦題を知っている人が今時どのくらいいるか?)がこんな素敵な Verse を持っていたなんて、しかもそれをこんなにチャーミングに歌われたら、もうかなわん、です。この人が’30年代のデビューだったなんて信じられないほどモダンです。

 もう一人の、非常に心落ち着く大好きな歌手、Barbara Lea の Prestige のもう1枚からも収録。それから、Billie Holiday の後期 (Verve 時代)からも数曲収録(個人的には聴くのがつらいのも有りますが)。

 また、録音時90才を越えていた Doc Cheatham (tp/vo) の Verse つきのほのぼのとしてしまう素晴らしい演奏(一曲、Verse のみ歌、なんて珍品 (Dinah) もあり)も収録できた。共演の Nicholas Payton も素晴らしい。これはアルバム全曲が素晴らしい。他にインストとしては、W.Marsalis の Startdust、Yago からのヒントで収録した Bud Powell の Tea For Two など。

 それと、重箱の隅と言われればそれまでだが、美空ひばりの Stardust や、日本語による Love Letters(Verse も日本語、でもやっぱり日本語は非常にベタつく)、江利ちえみの Again (実はこの江利ちえみのアルバムは、他の Verse 無しの曲が素晴らしかったのだが、残念)など、改めて聴くと、ここ数年来のビジュアル系歌手ブームが何なのか、と考えさせるようなものも、邪道とは思いながら敢えて収録しました。なお、不本意ながら、この種の未熟な歌手の歌も数曲収録。

 それと、これも Verse としては本筋ではないが、Mel Torme のライブから、20曲近くに及ぶ Fred Astaire メドレーに、おそらく Mel 自作と思われる Astaire を称える歌詞をつけてイントロとして Verse 仕立てで歌ったものも収録。これは、メドレーそのものも素晴らしいが、しゃべりも加えて、ステージングとはあるいはエンターテインメントとはどうあるべきか、というのをつくづく感じさせる素晴らしいもの。Mel の作曲能力と共に、バックとの一体感も特筆物。他に男声歌手は、Tony Bennett も比較的たっぷりと収録。

 最早、初めての曲なんてのは少なくなりつつあるが、それでも色々捜している内に感動的なものに出会えます。上記はその一部です。まだ All Of Me の Verse 付きには出会えていません。


Verse MD up to #28

2001年3月7日

 いつも MD 5枚単位で感想を書いていますが、今回は素晴らしいアルバムから収録できたので、途中経過報告。

 #25 まで編集した段階で一休みしようと思っていたのですが、うっかりレコード屋を覗いたら、Ella の George and Ira Gershwin Song Book (Verve)の中古 なんてのを見かけて、つい衝動買いしてしまった。これは、全53曲(最新の Polygram 編集では別テイク等が追加されているかも知れない)入っていて、その半分以上が Verse 付き、というもの。このアルバムだけでしか聴いたことのない曲も何曲かあり、編曲/指揮は Nelson Riddle のすばらしいアルバムである。この中から、以前オムニバスから収録済の数曲を除いて、20曲程度を収録。オムニバス盤を聴いていて思ったが、Ella の Song Book シリーズは全て入手したい。ライブ盤の派手さとは異なる素晴らしい世界が展開されている。ただ、このシリーズ、最近の Polygram 編集盤は追加曲が多く、以前のを買うと損した気持ちになるのがちとつらい。

 その他、Carol Sloane のこれも Gershwin 集 (Sony) から、同じくオムニバスから収録済の1曲を除いて、数曲を録。Gershwin 集に駄作はなく(Sarah Vaughan も Chris Connor も素晴しかった)これもまた素晴らしい。曲の解釈(テンポ設定など)が他の歌手と異なる Carol Sloane の独自の世界。伴奏のトミ・フラも素敵。LP 時代に、これと同時に確か歌手10人のアルバムが Sony から発売されたが、どれも素晴らしいものだった記憶がある。他の人も CD でも出ていると思われ、今後さがしてみることにしよう。

 それと、Eydie Gorme の MCA(Decca?) 時代の3枚(LPをそのままCD化したもの)も有名無名のスタンダード(スタンダードで無名というのも変な話だが)を、収録曲中の約 1/3 を Verse 付きで丁寧に歌っている。Things We Did Last Summer なんて Verse が付くと、なお更素晴らしい。Eydie Gorme なんて、The Gift (Recado) と「恋はボサノバ」(Blame It On The Bossa Nova) だけの人と思ったら大間違い。

 また、Sammy Davis Jr. が Mundel Lowe(g) だけのバックで歌ったアルバム(Decca) からも数曲。このアルバムは、ローリンド・アルメイダだけのバックで歌った Reprise のアルバムと並んで素晴らしい(これ、今 LP が行方不明)。

 その他、Salena Jones のイギリス時代の比較的見かけないアルバム2枚からも数曲。Verse 付きの Someday My Prince Will Come なんてのもあり、Chorus に入ると Bossa になるのも新鮮。コードは後半は Miles Davis コードではなく、原曲通り。

 他に、淳ちゃんからいただいた、Irene Kral、Kevin Mahogany、Chaka Kahn (Verse を歌ってますぞ)なども各1曲収録。今回は初めて Verse を収録できた曲が結構多く、早くも愛聴 MD の仲間入りをしそう。ということで、#30 までは続きそうです。#30 まで行ったら、また配布予定。そう言えば、#25 までのものもまだ配布未完了あり、今度お会いした時に。


Verse MD 目次へ戻る