村山秀樹編集によるScat MD



Scat MD up to #5



Scat MD up to #5

2004年3月27日

 Scat MD の編集を開始し、MD5枚、合計延べ100曲を越えましたので、とりあえず内容について記述しておきます。まだ、手持ち音源の2〜3割からの編集ですので、Scat MD 編集は、Verse MD 同様、今後も継続していきます。

 Scat MD の編集を始めたのは、ある友人の歌手から、Scat 集があれば便利なのだが、と依頼されたのが切っ掛けでした。以前、Verse MD の編集を始めた時、他にも何らかのテーマを持った編集というのは面白そうだ、と考え、Scat もそのテーマの1つに挙がってはいたのですが、この依頼で意を決して編集を開始しました。

 Scat MD というからには、その1曲目には、史上最初の Scat 録音とされている Louis Armstrong の Heebie Jeebies (1926年)をどうしても含めたいと考えていました。そのCD、手持ちには有ったのですが、押し入れの奥で、探すまでに時間がかかり、依頼を受けてから編集を開始するまでに時間がかかってしまいました。

 #5までに収録した100曲強を聴いてみると、一口に Scat と言っても、色々なタイプがあることに気付く。それらを類別してみると、

1)通常スタイル : 曲を原詩で歌い、その後、Scat ad-lib。
     この変形として、Scat は小節交換の形をとるものもある。
2)曲のテーマそのものを Scat で歌い、その後、Scat ad-lib。
     元々、器楽曲や Blues の場合、こういうスタイルが多い。
3)Ad-lib では無く、Written/arranged Scat。
     Jackie & Roy の場合、この形態がほとんど。
     アレンジの一部としての Scat の使用もある。Scat 部分が
     2nd Riff のような取扱いになることもある。
4)伴奏陣との小節交換を目的とした Scat。
     本当の Ad-lib での Scat もあるし、フルバンなどの場合は
     アレンジの一部としての Scat による小節交換もある。
5)エンディングのみを Scat で歌う。
     書かれた Scat Ending もあるが、Ad-lib で延々と Scat を続け、
     最終的 Ending になだれ込む例もある。
6)イントロに Scat を採用。多くの場合、Written/arranged Scat。
7)曲自体が Scat の部分を元々持っている。Mr. Paganini が一例。
8)Wordless theme : 歌詞でなく、Scat やハミングでテーマを歌う。

 では、#5までに収録済みの100曲強について、ちょっと説明。

 この100曲強の中で、一番収録数の多い曲は何だと思います?多分、ご推察の通りです。そうです、How High The Moon です。この曲、Ella 3例、Sarah 2例、Patti Austin、Dee Dee Bridgewater、Joe Williams、June Christy の例が今までにありました。これからもまだまだ収録されるものと思います。Patti は Ella そっくりで、どれほど Ella を聴いたのだろう、と思いますし、Sarah の内の1例は Ella を引用していますし、Joe も出だしは Ella を意識しているようですし、皆、ナンヤカンヤ Ella を聴いているのでしょうね。(余談ですが、Patti Austin、スタンダード・ジャズを歌っても素晴らしいです。Fusion 歌手と侮るなかれ!)その Ella 当人は、勿論 In Berlin が決定盤でしょうが、47年の録音で既に完成されたスタイルで歌っていますし、この曲はまさに十八番(おはこ)ですね。Ornithology の引用が見られるのも一部共通的な特徴でしょうか。これは、What Is This Thing Called Love の Scat で Hot House を引用するのと同じ趣向でしょう。

 音楽的に一番すごいと思うのは Sarah ですね。この人、元ピアニストだから、恐らく、コード進行は全て頭に入っているんですね。インストと対等に、しかし Scat でしかできないやり方を交えて歌う。引き込まれてしまいます。

 天性の才能ということでは Ella ですね。この人のメロディ・メイカーとしての才能は、本当に感心しますね。時に原曲のコード進行にこだわらず、伴奏陣と結託して、思いもかけない方向に引っ張って行く才能は、脱帽ものです。

 白人では文句無く Anita O'Day ですね。この人の場合、一切の小細工は不要で、おそらく本当にインスト奏者と同じ感覚で Scat をやっているのだろうと思います。歌のみならず Scat でも、彼女独特の粋な感覚を失わないのは素晴らしいことですね。

 そうそう、Scat となると登場してくる歌手もいますね。Verse 集では1,000曲中、2曲くらいしか登場していなかったのに、Scat 集ではわずか100曲中で既に7曲。そう Betty Carter です。私、Betty Carter の歌は嫌いなのですが、Scat だと生き生きしているのは感じますね。確かに自由奔放に歌っていますが、音楽的内容では、やはり Sarah には敵いませんね。この Betty の Scat の実力をもってしても、私はこの歌手はどうも好きになれません。ジャズ歌手としての Betty Carter に対する世の中の評価は、過大評価だと私は個人的には思います。

 それから、普段聴く機会が少ない割には、この中で4曲も登場(1つのアルバムからの収録)したのは Lorez Alexandria。この人の定番アルバムは、手持ちは全てLPで、かつ、今は行方不明ですので、Verse 集にも収録できなかったのですが、Impulse から出す前に所属していた King (USA) で良いアルバムを何枚か出していて、上記4曲も、その内の1枚からの収録です。全編 Scat で、Betty Carter に負けない頑張りようです。

 Carmen McRae のも10曲ほど収録しましたが、この人も、元ピアニストにも関わらず、私にとっては Scat はそれほど魅力あるものではありませんでした。この人の Scat 収録は、60年代後半以後の、クドくなってからのものが多いから、その遊び心は理解しても、クドさにはちょっと辟易としてしまうんですよね。ピアニストとして、弾き語りの素晴らしさは脱帽ものですが、どうもそれが Scat には生きていないような気がします。まあ、言ってみれば、感動する Scat の歌いまわしが少ない、というか、歌詞の表現力の素晴らしさに比べて、Scat は何か流れてしまうと言うか、とにかく、今の所、感心するものは少ない状態です。

 こうやって、色々聴いて、あらためて考えてみると、楽しいだけでなく、発見が沢山あります。私にこの作業を依頼した歌手の方に感謝!、です。


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