1−2. Charlie Parker の演奏に関するコメント

(Last Updated 1998/06/20)



【1】Cherokee / Ko Ko
 Cherokee のコード進行は Parker のイマジネーションをいたく刺激する進行の一つのようである。この進行に対しては Parker は常に全力で対応している。Parker の記録の最初期から晩年までこの曲の記録はあるが、全ての演奏が異常なまでの緊張感を伴っており、手抜きをした例を筆者は知らない。常に火を吹くようなすさまじい演奏である。それにしても、1945年の Ko Ko セッションでは、Miles Davis が Ko Ko のリフを吹けず、Piano で参加していた Dizzy Gillespie がこの曲だけは Trumpet に変えて参加したというエピソードは有名である。この演奏を聞けば、当時駆け出しのハナタレ小僧であった Miles Davis がこの曲に参加することを辞退した理由がたちどころにわかろう(下記の 4. 参照)。

 以下に Parker の演奏の全記録を記載する。

 下記の 3. 及び 4. の素晴らしさは誰でも知っていようが、それにしても 1. & 2. のように1942年(もしかしたら1941年)の Swing 全盛期に、若い Parker がかくも成熟した、しかも、Parker に限って言えば、正に Modern Jazz と呼んで差し支えない演奏を残していたとは。この辺および Jay McShann の時代の演奏を聞けば、Be Bop とは Parker 一人が作り出したということをはっきりと悟るであろう。決して Diz, Bud や Kenny Clarke などとの共同作業で作り出されたものなんかではない。回りは皆 Parker を追っただけである。Parker が演奏した結果に対して後から理論付けられたのが Modern Jazz 理論の核となったことは疑う余地がない。Coltrane 以前の Modern Jazz のすべての基礎は、Parker によって1942年までに確立された、と筆者は考えている。

 それにしても、1950年以降の最晩年の記録が少ないのは何故だろう。演奏しなかったからなのか、それとも単に記録されなかっただけなのか。50年から53年の記録そのものはかなりあるので、Cherokee/Ko Ko が演奏される機会が減ったのだろう、と筆者は勝手に想像している。おそらく、晩年の Parker にとってこの曲はしんどかった、と、これもまた勝手に想像している。最後の54年の演奏が一番元気がない(とは言ってもそこは Parker、凡人ははるかに越えている)のは晩年故か Kenton という設定故か、それとも単なるこの時の調子か。

1. 42.01.xx-42.03.xx : Clarke Monroe's Uptown House
2. 42.09.xx (or 41.09.xx) : Kansas City, as-g-ds Trio
3. 45.11.26 (Warming Up a Riff) : Savoy, First Leader Session
4. 45.11.26 (Ko Ko Take 1 & 2) : Savoy, First Leader Session
5. 46.03.xx-46.04.xx : AFRS Jubilee, Alto Medley with B. Carter & W. Smith
6. 47.02.01 (Home Cookin' II) : Chuck Kopely's
7. 47.09.13 (Ko Ko, theme only) : Bands for Bonds, with L. Tristano
8. 47.09.20 (Ko Ko, theme only) : Bands for Bonds, with L. Tristano
9. 47.09.29 (ko Ko) : Carnegie Hall, with Diz
10. 47.11.08 (Ko Ko) : Bands for Bonds, with L. Tristano
11. 47.11.11-47.11.23 (Ko Ko) : Argyle Lounge, Chicago (Really Ko Ko?)
12. 47.xx.xx (Ko Ko) : Washinton DC
13. 48.09.04 (Ko Ko) : Royal Roost
14. 49.12.25 (Ko Ko) : Carnegie Hall
15. 50.06.xx : 136th Street Session 16. 54.02.25 : Stan Kenton

【2】Tunisia の Break

 Ad-lib の場では決して前もって書いてある演奏をしたことの無い、と言われている Parker が常に同じ演奏をしようとした例が一つある。A Night in Tunisia の Break である。

 この Break については以下のエピソードが有名である。1946年の Dial 録音の時に Tunisia が録音された。その Take 1 において Parker はこれ以上はないという最高の演奏をしたが、他のメンバーの演奏が良くなかったためにこの Take はボツになった。しかし Parker のすばらしい演奏をあきらめ切れないプロデューサーの Ross Russell は、Parker の演奏部分のみを 'Famous Alto Break' と題して世に出したのである。

 この Break については Dial 以外にも素晴らしい演奏が多数ある。しかし、この Break は書いた本人の Parker にとっても演奏することは難しいらしく、残された記録の中には失敗しているのも少なからず残されている。また、他の Alto 奏者にとってもこの Break は課題の一つらしく、Alto Battle でこの曲が演奏される時には、誰がこの Break を一番上手に吹けるか、という吹き比べになるという。この吹き比べがレコードに記録された物もあるということだが、筆者は未聴であり、どなたかが持っていれば是非聞きたいものである。Parker 以外では最高の演奏の一つと筆者が考える Phil Woods - Gene Quill の演奏でも Parker には到底及ばない。ただ、この曲の Ad-lib に関しては、サビ以外はコード進行に変化が乏しいためか、Parker の演奏でも飛び抜けて良いというものは少ない。勿論、他の奏者に比べれば雲泥の差であるが。Player 諸兄も一度はこの Break に挑戦されたい。

 以下に Parker の演奏の全記録と筆者の評価を記載する。以下で"平均"となっているのは Parker としての平均であろうとの筆者の評価である。

1. 45.12.29 (?) : AFRS Jubilee 163 (?)
 Bird's Eyes Vol. 8 に収録されたこの演奏は本当にこの日付の演奏かは疑問。Parker の Break は途中で沈没(Tape つぎはぎ?)。Solo は平均点。例の(と言っても文章では表わせないが) Parker フレーズが出てくる。

2. 46.03.28 : Dial, Take 1 - Famous Alto Break Perfect Break.
 Solo は平均点. Solo は Ross Russell が言う程か?

3. 46.03.28 : Dial, Take 4 Perfect Break.
 Solo は平均点.

4. 46.03.28 : Dial, Take 5 Perfect Break. Solo は平均点 +.

5. 47.03.02? : Hi-De-Ho, Benedetti (Benedetti 録音は CD 収録順)
 Break は最後の2小節程度のみ、 Poor. Solo も今一。

6. 47.03.06? : Hi-De-Ho, Benedetti
 Break は Excellent but not Perfect. Solo は平均点 +.

7. 47.03.07? : Hi-De-Ho, Benedetti Poor Break.
 Solo も今一。 Tape のつぎはぎが気になる。

8. 47.03.08? : Hi-De-Ho, Benedetti
 Break はほぼ Perfect. Solo は平均点.

9. 47.03.09? : Hi-De-Ho, Benedetti
 Break の頭は切れているが、 ほぼ Perfect. Solo は平均点. 音悪し.

10. 47.03.13? : Hi-De-Ho, Benedetti
 Break は Poor. Solo は Good/平均点.

11. 47.09.29 : Carnegie Hall
 Break は Perfect. Solo も Excellent.

12. 47.11.11-47.11.23 : Argyle Lounge, Chicago
 Break は Perfect. Solo もまあ Excellent. 音質最悪.

13. 48.07.11 : Onyx Club, NYC, Benedetti
 Break は Perfect (変形), Drums miss. Solo は Good だが少し散漫。

14. 48.08.xx-48 Fall : Pershing Ball Room, Chicago, Diz Big Band
 Break は Perfect ただし少し変形. Solo もまあ Excellent. 音質最悪.

15. 49.02.26 : Royal Roost, NYC, Milt
 Break は 沈没. Solo は Good. Milt Jackson が若々しい。

16. 49.05.08-49.05.15 : Paris
 Break は Perfect. Solo もまあ Excellent. 音質最悪.

17. 50.02.14 : Birdland, J.J.
 Break は Perfect ただし少し変形(?). Solo もまあ Excellent. 音質最悪.

18. 50.05.17 : Birdland (Formerly assumed 50.06.30) No Parker. Fats Navarro Quartet.
 この Session 中この曲のみ Parker 不参加.

19. 50.Spring/Summer : Cafe Society, NYC No Parker's Break, No Parker Solo.
 Parker は Ending Theme のみ参加.

20. 51.03.31 : Birdland, Bud, Diz
 Break は Perfect. Solo も Excellent.

21. 51.06.23 : Eastern Parkway Ballroom, Brooklyn
 Break は Poor. Solo は Excellent. 音質最悪.

22. 52.11.15 : Carnegie Hall, Diz
 Break は Perfect. Solo も Excellent.

23. 53.05.15 : Massey Hall, Canada, Diz, Bud, Mingus, Roach
 Break は Average (書いたフレーズでない). Solo は Excellent.

【3】Bird with Strings

 Parker が Strings と演奏したものも、Studio / Live を問わず素晴らしいものが多い。筆者の臆測だが、共演している Strings 奏者はクラシックの教育を受けた者であり、Parker としてはある種の緊張感を持って臨んだのであろう。Parker の伝記には Parker がいかにクラシック音楽の知識を持っていたか、の類の記述がよくあるが、この点に筆者は疑問を持っている。また、Parker が有名なクラシック音楽家の門をたたき教えを請うた、という類の伝説にも疑問を持っている。Parker は実際はアカデミックな意味でのクラシック音楽にはそれ程興味を持っていなかったのでは、と推測している。一時的には色々と興味を示し、教えを請うような行動はあったとしても、継続的にそれを求めていたということは無い、と筆者は考えている。勿論 Parker の能力を持ってすれば、一通りのクラシックの知識を吸収することはそれ程難しくなかったろうし、また、Parker が耳にしたクラシックのメロディを Ad-lib に取り入れることなど簡単であったろう。当時の誰もがクラシックをマスターすることなど Parker にとっては朝飯前なはずだ、と考えていたのであろう。その、皆にとっての常識がこのような伝説をつくりあげたのであろう。

 筆者も Parker の能力を持ってすれば、そして Parker が本気になれば(こんなことはあり得ないと確信しているが)、そんなことは朝飯前であったろうと想像する。しかしその一方で筆者は、Parker はアカデミックな教育を受けていなかったという事実で、クラシック奏者にある種のコンプレックスを持っていたのではないか、とも想像している。このある種のコンプレックスが Parker をして String Session の時に緊張することの原因となり、この緊張が Strings との演奏は常に素晴らしい、という結果を生むことにつながっているのではないだろうか。

 1952年9月26日の Rockland Palace を録音した2種の Source の内の一つで、楽屋のスピーカーから流れてくる音楽を Jazz 奏者が録音したとされるものには、その Easy To Love のアレンジにあわせて回りの人達がアレンジ通りに口ずさんでいるのが記録されている。この一例を持ってしても当時の奏者がいかに Parker の Strings を聞き込んでいたががわかろう。発売当時コマーシャルであるとして非難されたという Verve の Strings も同業者にとってはバイブルの一つであったと推定される。Strings の最初のセッションである1949年11月30日の Verve セッションの1曲目 Just Friends を聞いてみてもその素晴らしさ、Parker の意気込みが感じられる。

 以下に Parker の全 Strings Session を記述する。参考にされたい。

(1) 49.11.30 : Verve, First Strings Session
(2) 50.07.05 : Verve (50 Late Summer?)
(3) 50.08.22-50.08.23 : Apollo Theatre, NYC. 6 Sets recorded
(4) 50.09.17 : Carnegie Hall, Verve (50.09.16?)
(5) 51.03.22 : Birdland, NYC
(6) 51.03.24 : Birdland, NYC
(7) 51.04.07 : Birdland, NYC
(8) 52.01.22/23 : Verve, with Big Band and Strings
(9) 52.09.26 : Rockland Palace, 2 tape recorders were set
(10) 52.11.14-52.11.15 : Carnegie Hall, 2 Sets recorded
(11) 54.08.27 : Birdland, NYC

【4】Bird in JATP

 Parker はどうも Blow するのが苦手だったようである。Alto Sax という楽器の特性もあろうが、Swing 派/中間派の奏者や Texas Tenor のようには Blow しなかった(できなかった)。JATP のステージにおいては、しばしば大 Blow 大会が行われた。Swing 派や中間派の、それも Tenor 奏者や Trumpet 奏者に顕著であった。時にはただ観客を興奮させるためだけに、時にはアイデアが尽きたのをごまかすために、ステージ上で多くの奏者が Blow に走った。またそれがよく観客に受けた。そのうち、音楽的内容は二の次にして、ただ観客に受けることだけを狙って Blow する者が多くなった。

 Parker はただ Blow するにはあまりに音楽的過ぎた。ただ無意味な音を Blow することには耐えられなかった、というよりは本能的にそんなことはできなかったのであろう。JATP のステージでは多くの場合、Blues か循環かバラード・メドレーが演奏された。全て Parker の得意とするところであり、何ら条件的には悪くなかったはずである。しかし Blow しないがために Parker は観客に受けなかった。あきらかに他の奏者より良い演奏なのに観客に受けないことに Parker は悩んだ。しかしどんなに受けを狙って吹こうとも、体にしみこんだ本能的に音楽的な部分までをもくずすことはできなかった。どんなに無意味な音を出そうとしても、素晴らしいフレーズとなってしまうのである。ただ興奮を期待した観客には受けないわけである。

 Parker の JATP の録音には、そういう Parker の悩み(?)を反映して、他の Session に比べて比較的ムラがある。それでも凡人の演奏に比べれば雲泥の差であることは言うまでも無いことであるが。

 JATP とは離れるが、筆者が知っている限り Parker のやる気のない Session が録音されたのはただの一度、1953年といわれる Tony Fruscella との Session ("More Unissued" Vol. 2 : Royal Jazz, RJD 506) のみである。このだらだらした Parker を聞いて、JATP の Parker を再度聞いてその胸中を測るのも面白いであろう。

 以下に Parker の JATP の全 Session を記述する。ステージではないが、JATP 的な Studio Jam を含めて紹介する。

(1) 46.01.29 : LA, Verve Sweet Georgia Brown
(2) 46.03.25 : LA, Verve Blues for Norman, I Can't Get Started, Lady Be Good, After You've Gone
(3) 46.04.22 : LA, Verve I Got Rhythm, JATP Blues
(4) 49 Summer : Carnegie Hall, Bird's Eyes / Bird Box Lover Come Back to Me (Bean and the Boys), Stuffy
(5) 49.09.18 : Carnegie Hall, Verve The Opener, Lester Leaps In, Embraceable You, The Closer, Ow, Flying Home, How High The Moon, Perdido
(6) 52.06.xx : Hollywood, Norman Granz' Jam Session, Verve Jam Blues, What Is This Thing Called Love, Ballad Medley, Funky Blues


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