Undercurrent (United Artists)
Bill Evans & Jim Hall


1.My Funny Valentine [alternate take]
2.My Funny Valentine
3.I Hear a Rhapsody
4.Dream Gypsy
5.Stairway to the Stars
6.I'm Getting Sentimental over You
7.Romain
8.Romain [alternate take]
9.Skating in Central Park
10.Darn That Dream
Bill Evans(p)
Jim Hall(g)

1963 Recording



〜 聞いてみたいオルタネイト・テイク 〜

 もしそのセッションの Alternate Take があれば、是が非でも聴いてみたい、と思うアルバムがいくつかある。私にとっては、Parker の全ての演奏と、この Undercurrent はその筆頭であった。

 最大の理由はあの My Funny Valentine にある。正規のレコーディング終了後に偶然始められた Valentine を、エンジニアがたまたまスイッチを切っていなかったがために記録された、と報じられたあの1曲(そうではなかったと後程判明するが)。レコーディングを意識していなかった、打合わせのない自発的演奏があそこまでのスリリングな演奏をつくりあげた、と報じられたあの1曲である。せーので始めて何と素晴らしいスリリングな演奏をするのだろう、とてつもない人達だ、と思った。録音後20数年経って、Valentine のAlternate Take が発売されたことで、この伝説はフィクションであった、と判明するが、それでもこの Valentine 自体の価値が少しも揺らぐものではない。

 2人のすさまじいばかりのコラボレーション、その間をぬって繰り出される複雑なリズムを伴った非常に緊張感の高いフレーズ、やがてそれが緊張の頂点で収束する時のスリルは、Miles Davis のバックでの、Hancock と Tony Williams が結託した複雑なリズムでのバッキングが、頭で一致した時の快感に似ている。そして、Jim Hall が4ビート・カッティングに入るその時のスリル、いまでも鳥肌が立つような興奮を覚える。

 この Master Take の印象が強過ぎたせいか、Valentine の Alternate には、期待ほどの感激は無かった。勿論、Alternate だけを聴いていれば、それはそれで Master に近い感激を味わったのであろうが。Bill Evans が左手で(?)ベース・ラインを弾いているのが Master Take と大きく違う点であろうか? Jim Hall の4ビート・カッティングと比べると、非常に常識的であったのは意外だった。

 上述の伝説は、Valentine 以外の5曲がすべてバラードであったがために、なお更信憑性を持って伝えられたのであろう。本来はバラード・アルバムとして企画されたが、予定外の Valentine がその素晴らしさ故に収録された、と。

 残りの曲であるが、演奏内容としてはどれも素晴らしい。いずれも美しいメロディを持つ曲を、通俗的な表現であるが、インタープレイかくあるべし、と言うべき、2人の感情移入が見事になされた演奏である。個人的にはDream Gypsy と John Lewis の Skating In Central Park が好きである。どちらもきれいなワルツである。I Hear A Rhapsody, Romain, Darn That Dream, そして Alternate 発売時に追加収録さた、I'm Getting Sentimental Over You, Stairway To The Stars, いずれも聴き惚れてしまう演奏である。

 これもどうしてもオリジナル盤が欲しかった。理由はジャケットである。当時の United Artists 共通のモノクロの写真、水に浮かんだ下着姿の女性のミステリアスな姿、ちょっと凹凸のある厚手の紙を使用したダブル・ジャケット。当時、この質感は日本盤では出せなかった。これは、当時新宿西口にあったオザワで買った。Time の Booker Little と同時の購入であった。


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