Out To Lunch (Blue Note)
Eric Dolphy


1.Hat and Beard
2.Something Sweet, Something Tender
3.Gazzelloni
4.Out to Lunch
5.Straight up and Down
Eric Dolphy(as,fl,bcl)
Freddie Hubbard(tp)
Bobby Hutcherson(vib)
Richard Davis(b)
Tony Williams(ds)

1964/2/25 Recording



〜 輸入盤の思い出とドルフィーの唯一の衝撃作 〜

 ジャズの輸入盤が買えるということを知ったのは、高校生になってからである。それまでは専ら生活圏(即、埼玉)の一般レコード店にしか行ったことはなかった。雑誌などで都内のジャズ専門店の広告を見て、また、ジャズ友達からの情報で、都内の店に顔を出すようになった。

 当時、高校生の身で、勿論お金は無く、高い輸入盤新品は買えず、ほとんど中古盤を漁っていた。中古盤は、数寄屋橋阪急内にあったハンター(数寄屋橋ショッピング・センターに移るのは後)、新宿はオザワ、トガワ、マルミ、渋谷のミヤコ堂、上野の蓄晃堂などであった。DiskUnion がお茶の水にできたのは大学生も高学年になってからであったと記憶。新品はもっぱら銀座のヤマハや山野楽器店で買ったが、財布との相談であった。

 初めて買った輸入盤がはっきり思い出せない。当時、前衛的なジャズに凝っていて、Albert Ayler や John Coltrane などのNew Wave In Jazz (Impulse) や Eric Dolphy の Out To Lunch (Blue Note) は早かった憶えがある(これらは当時の新譜で、新品で買った)。前衛がカッコ良いと思っていた時代で、難解なものほど素晴らしいもののはずだ、と思っていた。中身は何もわからず、カッコつけていた時代である。

 そんな身にも Out To Lunch の音は衝撃的であった。現在、Dolphy はイモだと悟ったが、悟った今聴いても Out To Lunch は新鮮である。 Anthony Williams, Freddie Hubbard, Bobby Hutcherson,Richard Davis の作り出す音の何と新鮮だったことか。Dolphy は今聴くと、(彼独特の)手くせ/指くせと奇声(馬のいななき?)を発するだけの人で、心に響くものは無い(感受性の問題だ、と言わばえ!)。Dolphy なんてジャズのマスコミが作り上げた幻影で、人が言う程の才能は無い。Last Date の終わりに録音されていた例のセリフが彼の仮想の姿をつくりあげてしまったのだろう。

 それにしても、Anthony のリズム・センスと、Milt とは全く異なる(と私には思えた)Hutcherson の金属的な音や斬新なハーモー、Freddie の切れ味鋭いフレーズ、それにからむ Richard Davis の奇怪な(?)音。新しい時代のジャズが産まれつつある現場にいるような気持ちにり、ワクワクしたものである。当時の Blue Note は、新しい胎動を感じさせる作品が多く(いわゆる、新主流派)、一作一作が待ち遠しかった。

 曲は5曲とも Dolphy のオリジナルで、Dolphy にしてはなかなか良い曲である。なぜ、他のアルバムではこのような緊張感のある曲を提供できなかったのであろうか? Blue Note というレーベルの魔力か、はたまた共演者の影響か? 曲そのものは、スタンダードとは正反対の、情緒なんて入る余地のない曲ばかりであったが、これらのメンバーにはピッタリの曲であった。変拍子の曲も、Brubeck のブンチャカ・パターンものとは違って、新鮮で緊張感の高いものであった。

 この録音のためにどの程度のリハーサルを実施したのであろうか。ただ、どう考えても練習を繰り返すことは、このピリピリした緊張感を薄めてしまうことにしか作用しないようにも感じる。一発録りの緊張感がこの一触即発の状況を生んだのだろうか? とにかく、この1枚は Dolphy の異色盤で、もしかしたら Dolphy は才能豊かな演奏者だったのではないか、と誤解させる程のできではある、と思う。

 当時 Blue Note は海外プレスを許していなかった。即、Blue Note は輸入盤(アメリカ原盤)でしか手に入らなかったのである。あの分厚いボール紙に Blue Note 独特の(ほとんどの場合、1色刷りの)ジャケット・デザイン(それにしても、この Out To Lunch のジャケットは秀逸であった)。中を開ければ、カタログ代わりの中袋、輸入盤独特のあのにおい、彫りの深い溝をもった分厚いレコード盤。日本盤のペラジャケと薄いフニャフニャした盤に比べて、何もかもが素晴らしく思えた。輸入盤の中でも全てにおいてこれだけの質を保持していたのは実は Blue Note だけだった、ということは程無く知ることになる訳だが。


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