Book of Ballads (Kapp/MCA)
Carmen McRae


1.Isn't It Romantic?
2.Please Be Kind
3.The Thrill Is Gone
4.If Love Is Good To Me
5.By Myself
6.Something I Dreamed Last Night
7.Do You Know Why?
8.He Was Too Good Me
9.How Long Has This Been Going On?
10.When I Fall In Love
11.Angel Eyes
12.My Romance
Carmen McRae(vo)
Don Abney(p)
Joe Benjamin(b)
Charles Smith(ds)
Frank Hunter's Orch.

1958/12/1-2 Recording



〜 最高のヴォーカルアルバム 〜

 ヴォーカルで1枚、と問われれば、ほとんど躊躇することなくこの1枚を挙げる。これは、LPで3回購入し、今はCDをMDに落として繰り返し聴いている。本当に素晴らしい。

 この頃の McRae は、後期のようなくどさは無く、声は多少金属的ではあるが、その表現力は抜群である。何より、言葉がきれいで歌詞を大事にするその丁寧な歌い方は、まるで聴き手の英語聴取能力が数段上がったのではないかと錯覚させるようなクリアな歌い方である。中学高校の英語を学んだ方なら、単数複数も現在過去も、3人称単数か否かも間違いようの無い、さらに、r も l も、v も b も確実に識別できるであろうきれいな言葉である。ある意味で、これを聞いてしまった人は不幸であると思われるような、歌詞がこんなにも素晴らしいものだったと思わせる歌い方である。曲によっては多少ドラマティックな表現のものもあるが、Nancy Wilson のようなくどさは感じさせない。伴奏陣は、ストリング入りのオーケストラを中心に比較的大きな編成のものから小編成のものまで、3種類程度に分かれているようである。いずれも出過ず、McRae の歌を良くサポートしている。

 アルバム全12曲、有名スタンダードに混じって、Do You Know Why? などの渋めの曲も入っている。How Long Has This Been Going On? や Please Be Kind、Something I Dreamed Last Night の3曲では丁寧に Verse から歌っている。

 この中で1曲と言われれば、When I Fall In Love であろうか。1語1語噛み締めるように歌うその丁寧な歌い方、語尾までクリアに発音しており、その歌詞への思い入れが伝わってくる。前半メロディに忠実に歌って、後半素晴らしいフェイクを交え、独自の世界を展開し、歌詞の Or I'll Never Give My Heart の Never を4回繰り返し、それぞれ異なる表現をする個所など圧倒的である。

 もう1曲、Angel Eyes では、エンディングのコーダを、Excuse Me でバサッと切り捨てて、While I Disappear の歌詞を歌わずとも、その場には最早居られない、と去らざるを得ない悲しさを見事に表現している。

 ドラマティックな歌い方の代表は最終曲の Something I Dreamed Last Night であろう。現実を認めたくないという気持ちが切々と現われているVerse から始まり、コーラスは淡々と歌い始め、徐々に感情の高まりを見せ、ついに想いと現実がごちゃ混ぜになり、それまで夢だと自分に言い聞かせてきたものを、歌詞の最後で No, I Wasn't Dreaming Last Night と現実に戻って、その時の感情を一気に吐き出すように歌い終えるその表現力、ドラマティックさが少しも嫌味に聞こえない。この曲は、最後の一言で結論を出して曲を終わる展開という意味で、Guess Who I Saw Today と同趣向の曲である。その曲の McRae もとても素晴らしい(別のアルバムですが)。

 Kapp/Decca 時代の McRae はどのアルバムを聴いても素晴らしく、がっかりすることは決して無いであろう。この時代近辺で McRae のもう1枚、と言われれば、After Glow であろうか、いや、When You're Away であろうか、はたまた、Something To Swing About であろうか、By Special Request であろうか。この時代の McRae、素晴らしいアルバムが多過ぎて、とても絞り切れない。


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